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逆さクラゲ

長い文章

日記 たなばた

 高円寺駅から総武線各駅停車千葉ゆきに乗って座席のよく考えたらそこだけ妙に空いてる区画に座り込んだんだが、ドア脇を見るとビッグダディ式にタオル巻いた坊主頭のお兄さん(推定土方、推定中卒)の足元に彼(推定土方、推定中卒)の胃の内容物が黄河のごとく茫洋と広がっている。どうもこっちの座席の足元までそれが流れてきていて、だから空いてたわけなんだけど、秒で向かい側の座席に移った。朝からそんな、お気に入りの白のジャックパーセルが心なしかペタペタする。
 よく見ると吐瀉物の上にビシャビシャの札束が重ねられていて、それが彼の理性の最後の抵抗らしかった、なんでそんなに哀しいどうだ明るくなったろうをしてしまうんだ。親切なお婆さんがビニール袋を手渡して(ああいうお婆さんってなんでいつもビニール袋を2,3枚は常備してるんだろうか)早く拾え、自分で、という意味のことをまくし立てている。中卒はもうふらふらでドアとかに頭ガンガンぶつけてるんだけど、頑張って札束拾い集めて、中野駅。中野は左側のドアが開くから、電車着いて都会人の反射神経で座席に突進しようと踏み出した足元に吐瀉物、めっちゃ嫌だろうな。有志が駅員さん呼びに行く、戻ってこない。お婆さんもこれ以上は世話を焼きかねて突っ立っている。
東中野、大久保、駅員さんは来ない、お婆さん下車、お前も、と促すも無反応、仕方がないけど私降りるわ、駅員さんにちゃんと言いなさいよ、それができたら周りもこんな苦労しないんだけど、ひとりぼっちの彼の背中、一個の迷惑な人間からただの設置型トラップに格下げになった佇まい。


 と、信濃町あたりで急に第二波が来たらしく、今度は座席の上に。質量のある半固体が流れ落ちる生々しい音、ツンと広がる酸性のにおい。なんかおれ急にもらいゲロしそうになって車両移っちゃったんだけど、コンビニの夜勤してた時は素手で片付けられたのに。カジヒデキみたいな顔したゲロ女も連れの男も手伝うどころか謝罪すらなくって、ゲロ女はともかく連れはお前しらふみたいなもんだからすみませんの一言ぐらい言えっだろうが、ヒデキの心配ばっかしやがって、コンビニ店員って本当に人権ないんだな、店にはひとり、来んなお前らとも言えないからA3の紙に赤文字で「清掃中、ご容赦ください」って書いてドアの両側に貼ってんのに客は容赦なく来るし、品出しも終わらないし、アー、そういうのが蓄積してって限界水位こえてしまったからやめることにしたんだろうけどおれ、思い出すと本当にイライラする、思い出したくない、怒りたくない。


 隣の車両からではわからない、設置型中卒はどこまで運ばれていくだろうか。もしかしたら東中野の独身寮とかに帰るつもりだったのに終点の千葉直前で急にしらふに戻って、年下の駅員からなぜかタメ語まじりの敬語で怒られたり、場合によっては聞こえよがしに「通報…」「罰金…」みたいな会話してるのを見せられたり、昨日までの日払い報酬が茶色いビシャビシャになってるのを見て呆然としたり、中卒独特の地理感覚をもってしてどこだよ千葉ってって孤独な途方に暮れるのかもしれない、北綾瀬駅のトイレの真ん前でやらかしてしまったことと京都駅でキセルがばれて詰められたことがあるのでその虚しさも、感情的にはどうあれ言ってることは正しい駅員を前にしたみじめさも知ってる、でもビッグダディの中卒には虚しさとかみじめさとかそういうのはないのかも知れないしおれにはよくわかりません。

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