逆さクラゲ

長い文章

リッキー・デュコーネイ: 友情 (翻訳)

 Rikki Ducornetの短編集The Complete Butcher's Tales より、 Friendship の翻訳です。

 デュコーネイは1943年ニューヨーク生まれの女性作家・アーティスト。岸本佐知子編訳『居心地の悪い部屋』に収録されている「分身 (The Double) 」という作品がずっと気になっていて、先日原書を入手してのろのろ読んでいたんですが、国内ではあまり紹介されていないこと、ほとんど2~3ページのショートショートばかりということもあり、英語の勉強も兼ねて時間のあるときにでも何編か訳したいなと思って、これがその1回目です。

 5歳児レベルの英語力しか持ち合わせていないので誤訳まみれだとは思うんですが、お前らは原書を持っていないのでしょせんバレやしない。そもそも日本語がおかしいとかいうのはもうすいませんとしか。

 作者名の表記、確認できた限り「デュコーネイ」と「デュコルネ」の2通りが存在するようで、あとGoogleで作者名を検索すると「リッキ・ダコーネット」なんて出てきたりするんですが(さすがにないだろ)、『居心地』でデュコーネイってなってるのと、YouTubeにラジオのゲストかなんかで呼ばれた時の音声が転がってて、それで「デュコーネイ」っぽく発音されてたのでそうしました。(これの30秒ぐらいのところです https://www.youtube.com/watch?v=rm_auRSwuFg )

 

以下本文…

 

友情

 フィリックスは初め左耳の後ろに瘤ができていることに気づかなかった。時が経ちライ豆ほどの大きさに成長した後でも、それは同じだった。しかし、未熟なすももほどの大きさと硬さを得るに至って彼の妻が発見し、一体全体それはなんなのと尋ねた。

 「知らないな」フィリックスは答えた。瘤を妻が最初に見つけたことに対して激しい自責を感じた。彼女はなんだって最初に見つける、ドアノブが取れていた時だってそう、飼っていた鳥が死んだ時だってそう。ネズミも、彼のジャケットの焦げ跡も、ゴキブリの巣も。

 「あなたにはわかりっこないでしょうね、」彼女は言った。「でも私にはわかる。腫瘍よ。ディッキーがあれで亡くなったでしょ、同じやつよ。私があなたなら医者に診てもらうけどね、それが大きく膨らんであの世に連れて行かれちゃう前に。自分がどれだけだらしないか考えてみなさいよ。どうしてこんなものにも気づかないの?熱気球みたいにバカでかい瘤に。」

 フィリックスは病院に予約を入れた、 医者は留守で、とても忙しくて、再来月までは暇がないとのことだったが…待てるか?

 「待つのよ!」電話を切るなり妻が叫んだ。「本当にバカみたいな腫瘍、冗談じゃない、誰だってそんなに雑に扱いやしないわよ。かわいそうな教皇様が目を覚ますと耳の後ろにピンクの熱気球がくっついていましたなんてことがもしあったら、5分後には手術台の上よ!」「麻酔をかけられて?」彼は思案した。「重症ってことか?」

 

 二ヶ月が経ち、医者はフィリックスの瘤をつつきまわしていた。グレープフルーツ大にまで育っていた。「触らないことですね、」医者は絞り出すように言った。「この保護具を付けてください、私がデザインしたんです。」彼はフィリックスに、明るい白色をして、耳を覆う形の取り外し可能な器具を手渡した。「心配はいりません」彼は付け足した。「痛みが出てこない限りはね。」

 痛くはなかった。フィリックスは自分のすべきことをした。保護具のつけ心地は快適で、彼は自分の隆起した骨のことを忘れるようになった。しかし妻は違った。ある朝、彼女が寝ている自分の瘤に触ろうとしていることに気づいて、フィリックスは目覚めた。「どんな色になってるのか気になって。」とは彼女の言い分だった。

 フィリックスは、これは双方にとって驚くべきことだったのだが、こう言った。「だめだよ。これは俺のだ。」結婚生活で初めて、フィリックスが何かを自分のものと呼んだ瞬間だった。

 

 クリスマスの日、フィリックスは一人で浴室にある洗面台の鏡の前にいた。妻は出て行った、多分いまごろは母親と暮らしているのだろう。彼自身の母親は、ありがたいことに、すでに死んでいた。彼は今にもはち切れんばかりの保護具をゆっくりと外していった。保護具はすでにいらなくなっていたのだという奇妙な確信があった。コブは確かに浮力を獲得し、自立していた。優しく保護具のバックキャッチを解除し、ストラップを耳から外した。

 フィリックスは、鏡の中の瘤に顔が付いているのを見つけた。それはもはや腫瘍ではなかった、みごとな頭、彼自身のものにとてもよく似ていた…最も、幾分若かったが。陽気で、はげていて、気さくな頭。もし道ですれ違ったなら「なんて人当たりの良さそうな顔をした奴なんだろう」と思うような頭。

 頭はフィリックスの顔をほど近くからしばし観察し、フィリックスの幸福そうな顔、少しの驚きが友好的な表情へと変わっていくのを見ていた。

 新しい頭はこれに喜んだ。楽しみと心地よさを、頭はいちどに抱いた。真珠のような歯を見せながら爽やかに笑った。

 「ようこそ!」フィリックスが言った。「どうぞくつろいで。」

 「ありがとう!」頭が言った。「そうするよ。」

 「それは結構。」フィリックス。

 「ああ。」頭。「どこにも問題ないよ。」

 「嬉しいな。」フィリックスは言った。「ずっとひとりだったんだ。奥さんとの生活はとても孤独なものだったから…」

 「知ってる。」

 「どこにも行かないと誓ってくれるかい。」フィリックスは懇願した。

 「おれはどこにも行かないよ。」とだけ、頭は言った。